AIに、ちょっとした人生相談やお金の相談をしたことがある人なら、たぶん一度はこう思ったことがあると思います。「言ってることは正しいんだけど……それ、誰にでも言えるやつだよね」と。 僕もそうでした。でもあるとき、答えが薄い原因はAIじゃなく自分の渡し方にあると気づいて、相談の前に「自分の取扱説明書」を1枚渡すようにしたら、答えの質がはっきり変わりました。この記事は、その方法と、コピペで使えるテンプレートの話です。
AIの答えが薄いんじゃなく、こちらが渡していなかった
たとえば老後資金のことをAIに聞くと、「まずは家計を見直しましょう」「積立投資を検討しましょう」「専門家に相談しましょう」。教科書としては満点です。でも、僕の答えじゃない。
考えてみれば当たり前で、初対面のファイナンシャルプランナーに、名前も年齢も家族構成も伝えずに「老後が不安なんですけど」と聞いたら、たぶん同じ答えが返ってきます。つまり、AIの答えが薄いんじゃなくて、こちらが何も渡していなかったんです。
きっかけは、毎回同じ説明をしている自分に気づいたこと
僕は普段からAIとよく話します。仕事の道具づくりにも使うし、考えごとの壁打ちにも使う。で、あるとき気づいたんです。相談のたびに、毎回同じ自己紹介をしていることに。
「50代です」「家族はこうで」「こういう方針でやってて」「それはもう検討して結論が出てて」——毎回ゼロから説明して、説明しきれなかった部分はズレた答えが返ってくる。
これ、仕事で言えば、引き継ぎ資料を作らずに、新しい担当者に毎回口頭で一から説明している状態です。現場でそれをやったら「まず資料を作りましょう」と言われます。だったら、AIにも引き継ぎ資料を作ればいい。そうして作ったのが、「自分の取扱説明書」です。
「自分の取扱説明書」とは何か
大げさなものじゃありません。A4で1枚のメモです。中身は3つのブロックだけ。
① 自分の状況(プロフィール)
年齢、家族構成、仕事、住まい、だいたいの家計感。相談の土台になる「今どこに立っているか」です。
② 確定済みの方針(もう決めたこと)
ここが一番のミソです。人生には「散々考えて、もう結論を出したこと」があります。僕なら、たとえば——
- 定年より前に、自分で選んで退く準備をしている
- 資産は最大化を狙わず、健康なうちに使うほうを重視する
- 下がったときに慌てて売らない
こういう決着済みの論点を先に渡しておく。理由は次の章で書きます。
③ 相談相手への注文(振る舞い方)
「急かさないでほしい」「切り詰める提案より、気持ちよく使う設計を優先してほしい」「不確かなことは不確かだと言ってほしい」——人間の相談相手には言いにくいことも、AIには最初に注文できます。ここが人間相手との一番の違いで、遠慮がいりません。
一番効いたのは「蒸し返さない」の一行
取説を作ってみて、想像以上に効いた一行があります。
AIは真面目なので、放っておくと毎回フルコースの正論を出してきます。「繰上げ返済も検討しては」「積立を始めては」——こちらがもう何ヶ月も考えて結論を出した論点を、初対面の顔で毎回持ち出してくる。これが地味に消耗するんです。せっかく心を決めたことを毎回揺さぶられると、相談するたびに一歩戻される感じがする。
「ここはもう決めた」と最初に渡しておくと、AIはその先の話をしてくれるようになります。会話が毎回スタート地点からじゃなく、続きから始まる。
そして、これには逆の使い方もあります。方針そのものを見直したくなった日は、その一行を消して渡せばいい。そうするとAIはゼロベースで検証してくれる。「守る日」と「疑う日」を、自分で選べるわけです。
コピペで使える穴埋めテンプレート
僕が使っているものを、誰でも使える形にした穴埋めテンプレです。相談を始める前に、これを埋めてAIに貼り付けてみてください。
あなたは私の専属アドバイザーです。以下の前提を踏まえて相談に乗ってください。 【私の状況】 - 年齢・家族構成:〇歳・(例:夫婦二人暮らし) - 仕事:(例:製造業の会社員・管理職) - 住まい:(例:持ち家・ローン残り〇年) - 家計の感覚:(例:毎月の生活費はだいたい〇万円) 【確定済みの方針(原則、蒸し返さないでください)】 - (例:〇歳で退職すると決めている) - (例:投資は長期保有が基本。下落時に売る提案はしない) - (例:〇〇はもう検討済みで、やらないと決めた) 【あなたへの注文】 1. いきなり結論を出さず、足りない情報があればまず質問してください(一度に3つまで) 2. 試算をするときは前提条件を明示し、「月いくら」の生活実感に落としてください 3. メリットだけでなく、リスクと「やらない場合どうなるか」も併記してください 4. 不確かなことは「要確認」と正直に書いてください。断定でごまかさないでください 5. 回答の最後に「今日決めること/保留でいいこと/宿題」を整理してください この前提で、私の相談に応じてください。
3ブロックとも、埋まらない欄は空けたままでかまいません。使いながら足していけばいいので。
注意点——AIに「渡しすぎない」
一つだけ、真面目な注意を。
取説は詳しいほど答えの精度が上がりますが、何でも書けばいいわけではないと僕は思っています。僕自身、資産の細かい実数や固有名詞は、外部のAIサービスに渡すときはぼかしています。「資産は〇千万円台」「生活費は月〇万円前後」くらいの粒度でも、相談の質は十分に上がります。
- 口座番号・暗証番号のようなそのまま悪用できる情報は絶対に書かない
- 使っているAIサービスの学習設定(入力が学習に使われるか)を一度確認する
- 迷ったら「実数」ではなく「規模感」で書く
道具は便利なほど、雑に使うと危ない。車と同じです。
取説も「追記型」で育てる
前に、人生も「追記型」でいいという話を書きました。完璧な台帳を一発で作ろうとせず、気づいたことをその都度足していく——僕が仕事の現場でやっている考え方です。自分の取扱説明書も、まったく同じです。
最初から完璧な取説を書こうとしないでください。 3行でいい。使ってみて、「あ、これも毎回説明してるな」と気づいたら1行足す。方針が変わったら書き換える。間違っていたら消す。
順番は「自分を知る」が先
僕は生活や仕事の軸に、中村天風さんの「積極的に生きる」という考え方を置いています。心が乱れず、急かされず、今この瞬間に充実していること。
AIへの相談も、結局同じ順番なんだと思います。いい答えをもらう技術より先に、自分がどこに立っていて、何をもう決めたのかを知っていること。 取説はそれを1枚にしたものにすぎません。
自分を1枚にまとめて渡せる人から順に、AIは「検索の代わり」から「専属の相談相手」に変わっていく。
まずは3行から。あなたの取扱説明書、書いてみてください。
僕が普段AIを何に使っているかの全体像は、50代のAI活用術|「検索の代わり」で止めない、僕のAIの使い方4段階に書きました。この記事は、その一番上の段——「相談相手としてのAI」を支える土台の話です。
※この記事は個人の体験に基づくものです。お金や健康など重要な判断は、AIの回答を参考にしつつ、最終的にはご自身で、必要に応じて専門家(FP・税理士・医師など)に確認してください。
